伊藤潤二恐怖マンガCollection (14)『長い夢』『トンネル奇譚』『銅像』『浮遊物』『白砂村血譚』の5編が収録されている。全て1997年に発表された作品とのこと。
『長い夢』は、一夜の眠りの中で見る夢の長さが1日、1ヶ月、1年と加速度的に長くなっていく存在の話で、やがて夢の長さに精神と肉体が耐え切れずに風化していってしまう。果たして、その存在にとってこちら側と向こう側、どちらが夢で、どちらが現実だったのか。現実の辛さから逃避するために夢の世界に住んだまま生を終えても良いのではないかという提案もなされていた。
『トンネル奇譚』は、不思議なトンネルに引きずり込まれる者達の話で、ベタな田舎色の怪奇譚に、宇宙線研究所などのSF要素が織り交ぜられている。
『銅像』は、今は年を取って醜くなった女性が、若いころの自分の姿の銅像を作り、そこに様々な仕掛けをして、自分を侮辱する人間を始末していく話。やがて、本当の美と幸せは永遠の若さである『像』にしかないと、彼女自身が像になることを決めるが……。失われても尚、若さと美に執着することでしか生きていけない女性の哀しさと恐怖が表現されている。寓話的でもあった。
『浮遊物』は、人から本音と本音を再生する機能を持って吐き出された黒くなったケサランパサランのような浮遊物が巻き起こす騒動で、青春の甘酸っぱい男女のやりとりを三角関係的に描きながらロマンティックに締めてくれている。
『白砂村血譚』は、住民が全員貧血気味で青白い村の診療所に医者としてやってきた主人公が体験する恐怖。実は村人は村そのものに血を吸い取られていたのだった。閉鎖的な村により、人々の活気等が失われていくことを暗喩したかのようなホラー話だった。