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読んで遊んで沈んだ記憶

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ジェンダーで読む福祉社会 (杉本貴代栄)

ジェンダーで読む福祉社会 (有斐閣選書)ジェンダーで読む福祉社会 (有斐閣選書)

 しかし、このような報告が「事実」であったとしても、女子高校生全体の四〇%が売春をしているわけではない。その理由は、たとえ女子高生の売春に対する罪悪感が薄れつつあるとはいっても、売春が「してはいけないこと」であり、少なくとも「やりたくないこと」であることは、女性という「性」を持つ限り自明のことだからである。当の女子高校生がどう自分に言いつくろおうとも、自分の身体を売ってお金を得ることが、快適な経験のはずがない。つまり売春とは、女性にとっては体と心とお金を危険に秤にかければ、いつも変わらず「割に合わないこと」だからである。
 それでも女子高校生による売春は、増えていると推測される。その背景には、「やりたくないこと」だけれど、自分の身体がお金になることを知った少女たち、「今」なら高く売れることを知った少女たちと、それを「援助交際」という曖昧な名で買春する男たちがいるからである。「自主的な」「気軽な」ノリの「援助交際」とは、何のことはない、その昔から変わらない売買春の構図と同じなのである。たとえ選択権が女子高校生の側にあるとはいっても、旧態依然の売買春の構図を「自主的」とはいえない。

(引用 本書P242-243)


1999年に出版された本。
ジェンダー偏在を修正することが社会福祉にとって必要な課題であるという認識が広がっているとした上で、社会福祉とジェンダーを相互関連づけてジェンダー視点から福祉社会を読み解くことに挑んでいる。

第1章 社会福祉政策と制度
第2章 家族・労働
第3章 児童福祉
第4章 母子・父子世帯
第5章 高齢者福祉
第6章 障害者(児)福祉
第7章 社会福祉のヒューマン・パワー
第8章 セクシュアリティ・人権

8章立てで構成されており、どの章も共通しているのはジェンダーバイアスへの批判である。
全体的には弱者の側に立つというスタンスで女性の味方をしている。映画やマンガの作品とその背景を例に挙げて親しみやすさを意識しながら、福祉社会の課題とそれを阻む問題点について理路整然と説明されている。
著者によれば、社会福祉に関する問題は女性の問題として出現する。それは、女性が介護・家事的仕事をこなす性別役割分業意識が社会全体に根強く、そのことが女性を低賃金に貶め、女性が大半を占める福祉労働者等の待遇の劣悪さや社会の様々な問題に繋がっているという。
売買春問題のように数字などの客観的データから一方的に社会であり男性への批判を導きにくい問題についてはフェミニストらしいバイアスのかかり具合が引っかかるところもあるが、それすら臆さない堂々とした文章だった。

個人的に気になったのは高齢者福祉の章で、自分自身、女性(嫁)が配偶者の親を介護するという光景が好きではないというか嫌いといっていいほどなのだが、高齢者の意識によると男性は家庭での介護を望む傾向にあり、女性は家庭で被介護者になることに消極的で外部サービスへの利用を希望する傾向があるというデータは興味深かった。
嫁姑問題のように、姑という存在は嫁を好きなだけいびりながら、老いたら嫁に介護してもらう、そんな腹づもりというイメージがあったのだが、女性のほうが家庭で介護してもらうことに消極的であるというのは、女性の方が男性より平均寿命が長く、配偶者より年下であることが多いので、配偶者(夫)からの介護を期待できないのと、介護が重労働で苦痛であり、よほど苦労したか、もしくは同性の苦労を見てきた経験があってのことだろうか。
あるいはフェミニズムの影響に高齢者であっても女性の方が敏感であるということなのかもしれない。
しかし、外部の福祉サービスを利用するとしても、そこには低賃金で働く女性たちの苦労によって支えられている実態があり、本書が指摘する流れから云えば、それは男性社会であり家父長制を支えるために組み込まれた都合の良いシステムであるともいえ、考えさせられた。

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