孤独のグルメ 【新装版】学生時代は一人で飯を食うということはこの集団の社会の中ではとてもまずいことではないかと考えていた。今思えばあの強迫観念はなんなのだろう。あの種の強迫に追いかけられながら我々は生き続けなければならないのだろうか。
孤独のグルメは、個人で輸入雑貨商を営んでいる中年の主人公が、一人でふらりと入った店で飯を食う、その日常の中の食事のシーンを切り取った作品である。
自由気ままが性に合うと云いながら、どこか後ろ姿が寂しくて、侘しさのある主人公は、孤独を愛するというよりも、コミュニケーションが疲れやすいのか得意ではなくて、社会からはみ出された存在のようで、そんな彼が気になったものを注文し、気ままに食う。食って、豊かに満たされていく。口で会話をしなくとも、食事とその空間のあらゆる存在に対して五感をフルに使って独自のコミュニケーションを試みる彼の感性の豊かさが、一人で平凡に飯を食うことの楽しさであり可笑しさを詩的に伝えている。
「モノを食べる時はね 誰にも邪魔されず 自由で なんというか 救われてなきゃあダメなんだ 独りで静かで豊かで……」
誰でも、自分なりの楽しい食事の仕方というのはあって、それが多人数の団欒の場であっても、きっとそこにはその場にいる人の数だけ「孤独のグルメ」が存在するのだろう。