伊藤潤二恐怖マンガCollection (9)『首幻想』『生霊の沼』『ペンフレンド』『侵入者』『押切異談』『押切異談・壁』の6編が収録されている。共通しているのは全て主人公が押切トオルという男子高校生に設定されており、彼が体験する怪奇エピソードになっているという点。
異次元のパラレルワールドが存在するというのが鍵になっていて、そこから主人公のいる世界にやってくるもう一人の自分という侵入者の脅威が大袈裟に描写されている。
「押切トオル」自体はごく普通の学生なのに、無限ともいえるほどに存在するもう一人の自分が、少なくとも作品内で登場する限りはどれも凶悪な性格なのは、わざわざ次元を飛び越えて侵入してくるほどなのだから、それぐらい攻撃的であるということもあるのだろうが、ポイントは主人公のコンプレックスにあることが作中で示唆されている。主人公は背が低いことがコンプレックスだった。異世界からの凶暴な侵入者はそのコンプレックスと、募らせた被害妄想を尖鋭化させた存在であり、自分という存在の可能性への追及であるということが伝わってきた。
多重人格をテーマにした『ペンフレンド』というエピソードも考える材料になる。追い詰められた時に、逃避からもう一人の自分を作り出すが、その存在が自分をより追い詰めていくという話で、このもう一つの人格が異次元の世界からの侵入者であるという見方も出来る。